株式会社メティス metis

二人の賢人の目

貴乃花の相撲協会からの引退と樹木希林さんの死去。
この二つの出来事に正面からしっかりと向き合える人はなかなかいない。
いかに自分が凡人であるかを思い知らされるからだ。
ワイドショーのコメンテーター連中が度々言う。
相撲界を変えたいならもっと仲間を増やすべきとか適正な手順を踏むべきだとか云々…。
それができない人間だから22回も優勝ができた大横綱なんだよと言いたい。
常識という枠に当てはめて語れるものとそうでないものとがある。
貴乃花のような唯一無二の存在をまっとうな視点で見るなという話だ。
私のような凡人は当たり前のようなことしかできない。

遡ること25年ほど前。ちょうど宮沢りえと破局してしばらくのこと。
貴乃花の合コン情報が入って、とある南青山のレストランで張り込みをした。
撮影をして、出てきたところを直撃したわけだが、貴乃花のひと睨みに瞬殺された。
21歳の若造に話を聞くことさえできず、「ノーコメントということですね」と逃げるしかなかった。
業界特有の考えやルール、そして常識。そんな枠で括れないからこそ貴乃花なのだ。
その貴乃花に相撲界がついていけなかっただけの話で、これはこれでいいのだ。

樹木希林さんと会釈を交わしたのもちょうどその頃だったと記憶している。
どこかの撮影所に取材に行ったときに挨拶をした程度なのだが、笑顔で私よりも深々と頭を下げた。
こちらも目が印象に残っている。
やさしさと怖さ。全てを包み込むような柔らかさと刃物のような鋭さが同居しているような目だった。
できることならば世間話の一つや二つでもしたかったのだが、もう一度樹木希林さんよりも深く頭を下げるのが精一杯だった。
「だってお父さんにはひとかけら、純なものがあるから」
内田裕也とのあのような関係を続けていることに対して子供にこう語っていたそうだが、我々凡人があれこれと批評するようなレベルにない。
マスコミの口調も一様にそれを褒め称えてはいるが、樹木希林さんは嬉しくもなんともないと思う。
別に樹木希林さんを喜ばせるためではないのだろうけれども、常人では括れない世界を見ている人なのだから。

とにかく私がこの二つの出来事を見て感じるのは、凡人には分からないし自分がそうであることをあらためて思い知らされたということ。
その凡人は目先の売り上げに落胆したり喜んだりしてなかなか別の世界に跳び出すこともできずにいる。
せめて私の中にあるひとかけらの変わらない変わりたくないものを大切にしていこう。

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