株式会社メティス metis

草履の力

われら世代は「ノストラダムスの大予言」に少なからずの影響を受けた。
1999年に人類が滅亡するというやつである。
コンピューターの2000年問題と相まって、大騒ぎしたものだ。
滅亡するとは思っていないが、カウントダウンが近付くにつれて、ハチの巣をつついたような状況だった。
あのときは、出版の世界にいたものだから、お祭りを楽しんでいるような感じだった。

ただ、このところの天変地異。
広島の大雨、関西の台風、そして北海道の地震。
時を挟むことなく立て続けに起こっていて、悲惨な光景がテレビやネットの映像を通して流れ込んでくる。
忘れた頃に襲ってくるではなく、忘れないうちに新たな災害が起こるのだ。
台風の影響で川が増水して溢れ出し住宅を飲み込んでいく。
当たり前のようになってしまったその光景の中に、イナゴに注目したニュースがあった。

川が氾濫する直前に川辺の草むらにいた大量のイナゴが一斉に逃げ出し住宅の壁や塀などにへばりついている様子が映し出されていたのだ。
千や二千ではない。万はいるだろう。
イナゴの視界なんてたかが知れている。
川の流れなど一切見えないだろうし、せいぜい目の前の雑草などが見える程度だ。
人間のように遠くを見渡せるわけでもないし、事前に台風情報を聞くこともできない。

身の危険を予知して、瞬時に避難するわけだ。
不謹慎な話だが、たくましいというかこの生命力に感心してしまった。
人間は生き物の頂点に位置して様々なものを生み出し使いこなしてはいるが、自分の身を守る能力においてはかなり劣っているのではないか。
自然に立ち向かえる力は衰えてきていて、バッタのほうが勝っているのではないか。
そんなことを考えさせられた今日この頃である。
呑気な話だが、それがきっかけで最近は草履を買って部屋で履くようになった。
スリッパや足にやさしい靴とか履いているから劣化する。
草履時代の昔の人のほうが丈夫な身体でたくましくはなかったか。
さすがに草履で通勤するのも恥かしいので、せめて家ではと思い、ささやかな抵抗を試みているわけだ。
脚にざらついた刺激があってなんだか少し健康になった気がする。
イナゴに近づくためにも、草履の力を信じたい。
こんなちょっとしたことで失ってしまった動物の本能が蘇るはずはないのだが、あえて不便なもの、過去の遺物を選んで使ってみるのもいいと思う。

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