株式会社メティス metis

合掌、合掌、合掌

うちの老猫のための酸素ハウスは一か月程度でその役目を終えてしまった。
去る2月6日。20歳になる我が家の老猫が永眠した。
幸いなことに、死に際の日中の2時間少々を一緒に過ごして、私が看取ることができた。
自営業でない限り、これはあり得ないことで、あらためて普通の会社勤めでなくてよかったと思った。
老猫が逝ってもまだうちには3匹の猫がいるが、20年の付き合いとなると、これまたちょっと違ってくる。
いまの会社を起業する前から、まだ週刊誌の記者をしていた時代から、苦楽を共にしたわけで、どんなときにでもそばにいた。
猫にありがちな、つかず離れずの程よいスタンスで付き合い、毎日のように顔を合わせていた。
非常に頭の良い猫で、私が忙しいときには、寄ってこない。
いまならば相手をしてあげられるというときを狙って、すり寄ってくる。
とにかく、人の気配をうまくつかむことのできた賢い猫だったわけだ。
この老猫はキジトラだったが、猫の起源をたどれば、これに行きつくと言われる。
いまでは、ありとあらゆる模様の猫がいるが、もともとはキジトラ柄の猫しかいなかった。
つまり、キジトラは、猫そのものであって、猫らしい猫であって、混じり気のない猫なのだ。
この老猫がいなくなってしまった今、うちにはキジトラは3歳の1匹しかいない。
2匹のキジトラを両側に従えたときの、あの何とも言えない満足感がもう味わえなくなってしまった。
古代エジプトでは、猫は崇拝されていて、遺体をミイラにして葬ったとされている。
その時代の猫のミイラはもちろんすべてキジトラ柄で、それだけ崇高な猫だったりするわけだ。
ミイラにしてあげることはできないが、とにかく丁重に葬ってあげなくてはならない。
深大寺動物霊園に連れて行って、火葬した。

ここは、変な話だが、人間並みにペットを扱ってくれる。
お骨をきれいに並べて、時間をかけて一つずつ説明してくれたり、箸渡しでお骨を骨壺に入れたりと本当に人間の火葬と変わらない。
予約時間に行き、予定通り行ったとしても、終わるまでに2時間近くはしっかりとかかる。
こういった手順をしっかりと踏むことで、こちらも心の整理ができたりする。
とはいえ、20年来の友。
31歳の私も、51歳の私も知っていた友。
老猫が生きていた頃は、うるさく感じられた酸素ハウスのシューシューという音。
静かな部屋に戻ってしまったことが、辛く切ない。
老猫のための薬の残りを片付けながら、失ってしまったものの大きさを実感するのだ。

仕事では元気が出なくても元気を出さなきゃならない。
正直には生きられない人間は猫よりも劣っているような気がしてならない。

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